こんにちは。行政書士の森 浩之です。
以前のコラムで、法的に3種類ある民泊の概要及び規制緩和で今、最も注目されている住宅宿泊事業法(民泊新法)に基づく開業についてご紹介しました。
民泊を開業しよう!
今回は残りの2類型、旅館業法及び国家戦略特区法に基づく民泊についてご紹介するとともに、いずれの民泊でも必要となる消防設備と届出についてお伝えします。
1 住宅宿泊事業者(民泊新法)のおさらい
これからご紹介する2つの類型の民泊と比較するため、住宅宿泊事業法に基づく住宅宿泊事業者についておさらいしましょう。
- 開業にあたって都道府県知事等への届出で足りるため、最もハードルが低い
- 宿泊日数が年間180日以内(条例でさらに短縮もあり)という制限がある
- 台所、浴室、便所、洗面設備の設置が必須
- 数時間でも家を空ける時間があれば、家主非居住型となり、宿泊管理業者への委託が必要
2 旅館業法に基づく簡易宿所営業とは
次に、旅館業法に基づく簡易宿所営業をご紹介します。
そもそもではありますが、民泊とは、宿泊料を受けて人を宿泊させる営業にあたり、原則として、旅館業法の規制を受けるものです。
一方で、すべての民泊を要件が厳しい旅館業法で縛ると、草の根的に発生した民泊文化のが成り立たなくなること、深刻な宿泊所不足の打開策として有効であること、しかしながら一定の規制をかけなければ公衆衛生上問題が生ずることから、一定の要件を満たすものに限り、住宅宿泊事業法(民泊新法)に基づく住宅宿泊事業の届出、国家戦略特別区域法に基づく特区民泊が設けられたという経緯があります。
旅館業法ではホテル営業、旅館営業、簡易宿所営業及び下宿営業の4種類がありますが、最もハードルが低く、短期間の滞在にもなじむものとして、簡易宿所営業が民泊では多く選択されます。
なお、簡易宿所営業とは、宿泊する場所を多数人で共用する構造及び設備を設けてする営業であり、民泊の他にも、山小屋、スキー小屋、ユースホステル、カプセルホテルが該当します。
簡易宿所営業が、民泊新法に基づく営業と異なる最も大きい点は、営業日数の上限がないという点です。
民泊で生計を立てるために、通年営業を考えている方は、簡易宿所営業の許可を取る必要があります。
①簡易宿所営業の構造設備基準
簡易宿所営業は旅館業法施行令に基づく構造設備基準を満たしている必要があります。
- 客室の延床面積は、33平米(宿泊者10人未満は3.3平米×人数)以上
- 二段ベッドの、上段と下段の間隔は、約1m以上
- 換気、採光、照明、防湿、排水設備があること
- 近所に公衆浴場がない時は人数に応じた規模の入浴設備を設けること
- 人数に応じた洗面設備を設けること
- 人数に応じた便所の数を設けること
- その他都道府県が条例で上乗せして決めた構造設備の基準に適合すること
②旅館業法の許可
旅館業法に基づく許可を受けるためには、民泊サービスを行う予定の施設が位置する都道府県(保健所設置市、特別区)の保健所で申請が必要です。
申請に先立ち、事前相談が必要とされている保健所が多く、その際には次の書類が求められます。
- 施設の所在地
- 施設の図面
- 建築基準法への適合状況(用途変更等)
- 消防法への適合状況
- マンション管理規約(民泊禁止でないこと)
本番の許可申請にあたっては、次の書類の提出と手数料が必要です。
- 許可申請書
- 営業施設の図面
- その他自治体が条例等で定める書類
申請受理後、保健所職員による立ち入り検査が行われたのち、構造設備基準に合致していると認められたときは、許可が得られ、開業することができます。
なお、100m以内に学校、幼稚園、児童福祉施設、図書館などがある場所では許可が得られないことがあります。
③営業を開始してから必要なこと
簡易宿所営業では、営業を開始してからも、保健所の指導により次の項目について遵守が義務付けられ、その内容は都道府県の条例によって一部異なります。
- 換気…換気用の開口部は常に解放すること
- 採光、照明…条例で定める基準以上の照度を保つこと
- 防湿…寝具は湿気を帯びないように保管すること
- 清潔…寝具は宿泊者ごとに交換すること
- その他宿泊者の衛生に必要な措置…条例で定められた一部屋あたりの上限人数を遵守
3 国家戦略特別区域法に基づく民泊とは
国家戦略特別区域法に基づく民泊を「特区民泊」といい、正式には「国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業」といいます。
この「特区民泊」はインバウンド旅行者等による需要が高く、旅行業界の発展に寄与する可能性があることから、注目されています。
なお、正式名称には「外国人滞在施設」とありますが、日本人が利用することも可能です。
① 特区民泊とその他の民泊の違い
国家戦略特区において、滞在に適した施設を賃貸借契約に基づき一定期間以上使用させ、滞在に必要な役務を提供する事業として政令で定める要件に該当するものを特区民泊といいますが、その他の類型の民泊との違いは次のとおりです。
●申請方法と宿泊日数
通常の民泊は、年間180日以内であれば住宅宿泊事業法に基づく届出、これを超えるときは旅館業法による許可が必要とされます。
特区民泊は宿泊日数に制限がなく、都道府県へ「認定」の申請が必要とされています。
認定とは、ざっくりいうと、届出と許可の中間にあたり、自治体による民泊の事実の確認となります。
●最低宿泊日数
通常の民泊は最低宿泊日数の制限がありませんが、特区民泊は最低2泊3日と定められており、1泊2日は対象外となります。
●不在時の管理業者への委託業務が不要
民泊新法に基づく住宅宿泊事業者は住宅宿泊管理業者に管理業務(宿泊者の名簿の作成、近隣とのトラブル対応、衛生管理措置)を原則として委託する必要があります。
一方、特区民泊はこの点についての規定がなく、自ら管理することが可能です。
②特区民泊が認められるエリア
特区民泊が認められるエリアは、内閣総理大臣の認定を受け、国家戦略特区に指定されている区域のうち、特区民泊ができる自治体独自の条例が定められている区域に限定されます。
- 東京都大田区
- 大阪府大阪市
- 福岡県北九州市
- 新潟県新潟市
- 千葉県千葉市
④特区民泊のメリット、デメリット
特区民泊の大きなメリットは、民泊新法や旅館業法に基づく民泊と比べ様々な点で規制が緩和されている点です。
また2泊3日以上の宿泊を前提に営業しなければならないという制限は特区民泊に独特のものですが、1泊2日の需要にこたえられないものの、一件あたりの収益性が高くなるポテンシャルがあり、一概にメリットともデメリットともいえません。
一方、デメリットとしては、対象地域が限られているため、どの地域でも開業できない点があげられます。
特に、特区民泊ができる自治体独自の条例が定められている必要があり、行政の高い意識が求められます。
⑤特区民泊の認定を受けるためには
ここでは、東京深川行政書士事務所から近くにある東京都大田区を例に特区民泊の認定を受ける流れをご紹介します
●生活衛生課への事前相談
大田区で特区民泊の認定を受けるためには、大田区の生活衛生課に事前相談を最初に行う必要があります。
事前相談と名前がついていますが、認定を受けるためには必須とされており、事実上の審査がここから始まります。
なお、事前相談の前には、認定要件を満たしている必要があり、それを示す書類を持参する必要があります。
大田区の主な認定要件は次のとおりです。
- 1居室の床面積が25平米以上で施錠可能(例外的に20平米も可)
- 台所、浴室、便所、洗面設備があること
- 寝具、テーブル、椅子、収納家具、調理、清掃に必要な器具があること
- 外国語を用いた案内があること
- 滞在期間が2泊3日以上であること
- 建築基準法上「ホテル・旅館」が建築可能な用途地域であること
持参する必要がある書類は、換気設備、採光、暖房、冷房、台所、浴室、便所、洗面設備及び寸法を示した平面図です。
●建築審査課への事前相談
次に、建築審査課への事前相談を行います。
最低滞在期間が7日未満の民泊を営むとき、新築物件であるとき、用途変更が必要な時に求められ、次の書類を持参する必要があります。
- 案内図
- 配置図、平面図、立面図
- 適合性チェックシート(最低滞在期間7日未満の場合、床面積や非常用照明等を記載)
- 既存建築物:確認済証、検査済証、確認申請書一式
●消防署への事前相談
こちらについては、後述しますので省略します。
検査結果通知書を得る必要があります。
●近隣住民への説明の事前確認
近隣住民への説明の実施の前に、説明用書面の内容について、生活衛生課の確認を得る必要があります。
確認にあたっては、次の項目を備えた説明用書面を対面・FAX・メールで送ります。
- 氏名(法人は名称、代表者氏名)
- 施設の名称、所在地
- 近隣住民からの苦情等の窓口の連絡先(担当者名、所在地、電話番号)
- 廃棄物の処理方法
- 火災等の緊急事態が生じた場合の対応方法
- 当該書面に関する問合せ先の名称、連絡先
- 意見の申出期限
- 事業の内容
●近隣住民の説明
生活衛生課の確認が完了した書面により、住民への説明を行います。
具体的には、対面による説明時の配布や施設設置予定地の見やすい場所への掲示となります。
なお、反対する近隣住民に対しては説明で足り、同意までは必要ありませんが、意見の申出に対して、誠意を持った回答を行った実績が必要とされています。
●特定認定申請
以上の手続きが完了した後、認定申請書、申請手数料(20,500円)を納めた後、書類審査と現地調査を経て認定書が交付されます。
なお、事業開始にあたっては、大田区のサイトで施設名称と所在地が公表されることとなります。
4 民泊の消防関連法令について
民泊の営業にあたっては、宿泊室の床面積や家主の居住の有無等の火災危険性に応じて消防法令上の用途が判定され、これによって、求められる消防法令上の対応が異なります。
①新たな消防設備の設置の要否について
例外的に、新たに消防設備を設置する必要がないとされているのは、次の2つの要件を満たすときに限られ、どちらかでも満たさない時は、新たに消防設備を設ける必要があります。
- 人を宿泊させる間、住宅に家主が不在とならない
- 宿泊者が就寝するために使用する室(宿泊室)の床面積の合計が50平米以下
なお、これらの要件を満たすときでも、寝室や階段に住宅用火災警報器がないときは、設置が必要です。
②消防設備の設置基準について
民泊施設においては、次の消防設備の設置が義務付けられています。
- 自動火災報知設備
- 誘導灯
- 防炎物品の使用(カーテン、じゅうたん)
- 消防用設備等の点検(年2回)及び報告(年1回)
- 規模によっては消火器の設置
③ 消防用設備の設置・届出
消防用設備の設置にあたっては規模などによっては、次のような届出が必要となります。
- 工事整備対象設備等着工届出書
- 消防用設備等設置届出書
- 防火対象物使用開始届出書
- 防火管理者選任届出書
- 消防計画作成届出書
④ 消防法令適合通知書
住宅宿泊事業法施行要領(ガイドライン)では、住宅宿泊事業の届出時に消防法令適合通知書をあわせて提出することとされています。
消防法令適合通知書の取得方法は次のとおりです。
- 消防法令適合通知書の交付申請…消防署へ所定の様式により、交付申請します。
- 消防法令適合状況の調査…消防署職員により、立入検査が行われ、消防法令への適合状況について調査が行われます。
- 消防法令適合通知書の交付…調査で消防法令に適合していると認められるときは、「消防法令適合通知書」が交付されます
まとめ
今回のコラムでは、最近相談が急増してきている民泊の第2弾として、旅館業法や国家戦略特区法に基づく民泊及び求められる消防法令についてお伝えしました。
規制緩和が進んだとはされていますが、まだまだ細かい法令上の規制が存在することから、スムーズな開業のために民泊の行政手続きについて専門家のサポートを受けることをおススメします。
民泊に関する手続きの取り扱い実績と経験が豊富である東京深川行政書士事務所では、民泊新法、簡易宿所、特区民泊いずれについても積極的に受付しておりますので、お気軽にご相談ください。