こんにちは、行政書士の菅拓哉です。
人が亡くなったとき、その後にしなければならない手続きは意外と多く、なおかつ手間も相当にかかります。
例えば、葬儀から納骨に至る一連の手続に始まり、医療費や公共料金の支払い、年金受給の停止、遺品整理等が挙げられます。
そうした死後の事務手続きを、まだ自らが元気なうちに「私が死んだときには、あなたにお願いしますよ」と頼んで契約しておくことを、「死後事務委任」といいます。
「おひとりさま」が生前対策をしないことのリスク
通常、ある人が亡くなったとき、死後の手続きは親族が行うことがほとんどです。
もし死後のことを親族以外の人に頼む場合、この死後事務委任の契約を結んでおかなければ、スムーズに行うことができません。
あなたがまだ元気なうちは、身のまわりのことは何でもできるかもしれません。
しかし、死後のことは、自分ひとりではどうにもなりません。
仮にあなたに親族が誰もいない、「おひとりさま」の場合、死後に起こりうることを想像してみてください。それらをスムーズに済ませることが、簡単だと思われますか?
早いうちから、自ら死後お世話になる葬儀社や霊園を決めて契約しておくなどの、ある程度の準備をしておくことは、良い生前対策となるでしょう。
ただしその場合でも、亡くなってから「葬儀社や霊園を手配し、手続を済ませてくれる誰か」は絶対に必要です。
もしかしたら「死後のことは役所がなんとかしてくれるだろう」と思われるかもしれませんが、残念ながら、死後の手続きに関して、役所がしてくれることは何もありません、
そのため、対策を講じないまま親族がいない方が亡くなってしまうと、以下のような場面で問題が発生します。
- ご遺体の引取り
- 死亡届や葬儀、納骨や埋葬、永代供養等の手続
- 家賃や介護報酬、医療費等の精算
- 携帯電話、公共料金の解約
- 自宅の片付け
- ペットの引き継ぎ先の選定
- 自動車の名義変更や廃車等の手続き
ぜひ一度考えてみてください。
死後事務委任契約を「誰と」締結するか?
これらの死後の事務手続きの処理を、生前から頼むことができる「死後事務委任」は、だれと契約するかを自由に選ぶことができます。
ご友人や知人と契約することも可能ですが、できれば地域の身近な法律家である、弁護士や行政書士に依頼することをおすすめします。
その主な理由として、死後事務は、法律関係に慣れていないと、かなり面倒な手続が多いからです。
知人に死後事務を委任し、引き受けてはくれたものの、亡くなられたあと実際に手続きをしようとしてもうまくいかず、結局受任者の方が専門家に依頼することになってしまった…等の事例はよくあります。
このようなことから、善意で引き受けてくれた知人に負担を強いるのであれば、最初から専門家に依頼するのが、結局最善手になる可能性が高いです。
死後事務委任契約においては、死後事務を依頼する人を「委任者」、委任者の要望に合わせて死後事務を行う人を「受任者」と呼びます。
死後事務とは文字通り、その人の死後に発生する事務のことですから、受任者は委任者に何か問題が起こっていないか、元気に過ごしてしるかを知っている必要があります。委任者が亡くなったら、即時に対応しなければならない立場だからです。
そこで、死後事務委任契約には、委任契約が組み合わされるのが一般的で、通称「見守り契約」と言います。
とくに親族が誰も居ない場合、自身に異変が生じても、受任者に連絡をとってくれる人がいません。ですから、受任者には、定期的に委任者に連絡をとってくれる法律家に依頼するのが望ましいです。
費用について
これらの事務契約を行う場合、どれくらいの費用がかかるのか気になるところだと思いますが、報酬額に決まりはなく、その専門家によってかかる費用も変わってきますので、十分に検討する必要があります。
最寄りの行政書士事務所のHP等で情報を調べた際、そこに死後事務委任契約についての言及がなかった場合でも、遺言書作成を取り扱っている事務所であれば、相談に応じてくれることがほとんどです。
いくつかの事務所にあたって、信頼でき、報酬額も納得できる事務所に依頼するのが良いでしょう。
ちなみに、死後事務委任契約の場合、報酬とは別に手続等にかかる費用も当然、自己負担になります。
その分のお金を用意するのを忘れないようにしてください。
例えば火葬の手続きを委任する場合、専門家との報酬とは別に、火葬の費用を含めて用意する必要があります。
もっとも、死後事務にかかる実費がどれくらいになるか正確なところは、死後になってみないとわかりませんから、死後事務委任契約の締結時には概算で見積もりを出してもらうことが多いですし、弊所も概算費用を事前にお預かりし、死後に精算するように契約を締結しております。
まとめ
ラテン語に「メメント・モリ(memento mori)」という言葉があります。これを約すと「自分がいつか死ぬことを忘れるな」「死を想え」という事になります。
ふだん、私たちは「死」という、人生最大の問題について、具体的に考えることを無意識に避けています。
それでも、人生のターニングポイントにおいて、時々考えることがあって、生命保険に入ってみたり、災害用の備蓄品を新調してみたり・・・というのが大半ではなないでしょうか。
「死後」という言葉の響きは、不吉であり、実際考えたくもないと思う方も多いでしょう。正直私もそう思う部分はありますが、とらえ方を少し変えてみると、前向きな言葉にも思えてきます。
人にとって死は必然であり、全ての人に必ず訪れるものです。
ですから、「死」を忌み嫌うものとして、タブー視するのではなく、自らの「生」の総仕上げととらえてみるのはどうでしょうか。
憂いなく、自らの「生」を全うすること、言い換えると、最善の「生」を生ききること。
そのためにする準備として、自らの死後において、いたずらに他者に迷惑を掛けたくないと考え、行動すること。
その選択肢の一つとして、「死後事務委任」があると、私は思います。